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地方裁判所

「一体こんな時刻に、どうしてこの辺を彷徨(うろつ)いているのだね。僕は地方裁判所の検事なんだが。」
「実は、飛んだ罪な悪戯(いたずら)をした奴がおりましてな。」不意を喰って愕然(ぎょつ)と振向いた態(かたち)のままで、ルキーンは割合平然と答えた。
「皇帝(ツァール)への忠誠一筋で、うっかり偽電報を信用したばかりに、あたらの初夜を棒に振ってしまいましたよ。」
「初夜!?[#「!?」は一文字、面区点番号1-8-78]」検事は唆(そそ)られ気味に問い返した。
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侏儒

ああ、侏儒(こびと)のマシコフ!?[#「!?」は一文字、面区点番号1-8-78]」法水には、かつて彼を高座で見た記憶があった。特に強い印象は、重錘揚(じゅうすいあげ)選手みたいに畸形(きけい)的な発達をした上体と、不気味なくらい大きな顔と四肢(し)の掌(ひら)で、肩の廻りには団々たる肉塊が、駱駝(らくだ)の背瘤(せこぶ)のように幾つも盛り上っていた。年齢は法水と同様三七、八がらみ、血色のよいヤフェクト風の丸顔で額が抜け上り、ちょっと見は柔和な商人体の容貌であるが、眼だけは、切目(きれめ)が穂槍(ほやり)形に尖っていて鋭かった。
 その時、二人を発見して歩み寄ってきた検事が、不意に背後から声を掛けた

白系

それも、ホンの一二分程の間で、しかも低い憂鬱な鳴り方であったが、その音が偶然便所に起きた検事の耳に入った。すると、俊敏な検事の神経にたちまち触れたものがあったのだ。と云うのが大正十年の白露人保護請願で、とりわけその中に、――当時赤露非常委員会(チェカ)の間諜(スパイ)連が企てていた白系巨頭暗殺計画に備えて、時刻はずれの鳴鐘を以って異変の警報にする――と云う条項があったからである。そこで、検事はさっそく付近の法水に電話をかけ、聖堂の前で落ち合うことになった。前日の夕方から始まった烈風交(まじ)りの霙(みぞれ)が、夜半頃に風が柔らぎ、今ではまったく降りやんだのであるが、依然厚い雪雲の層に遮(さえぎ)られて、空のどこにも光がない。その中を歩んで行くうち、ふと正門近くで法水は不思議なものにぶつかった。小さな人型(ひとがた)をした真黒な塊が、突然横町から転がり出したのである。法水がほとんど反射的に誰何(すいか)すると、その人型は竦(すく)んだように静止して、しばらくは荒い呼吸の喘(あえ)ぎが聴えていたが、やがて、つかつか前に進み寄ってきた。まず、身長三尺五寸程と思われる小児の姿が法水の眼に映ったのであるが、なんと意外なことには、次の瞬間幅広い低音(バス)が唸(うな)り出した。

推理

 推理の深さと超人的な想像力によって、不世出の名を唱(うた)われた前捜査局長、現在では全国屈指の刑事弁護士である法水麟太郎(のりみずりんたろう)は、従来(これまで)の例だと、捜査当局が散々持て余した末に登場するのが常であるが、この事件に限って冒頭から関係を持つに至った。と云うのは、彼と友人の支倉(はぜくら)検事の私宅が聖堂の付近にあるばかりでなく、実に、不気味な前駆があったからだ。時鐘の取締りをうけて時刻はずれには決して鳴ることのない聖堂の鐘が、凍体(とうたい)のような一月二十一日払暁五時の空気に、嫋嫋(じょうじょう)とした振動を伝えたのである。
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